設計ケーススタディ    

x軸に対するLQG設計

最初の近似として、-軸と-軸間の相互干渉を無視し、各軸を独立に扱います。すなわち、各軸に対して、1つのSISO LQGレギュレータを設計します。設計目標は、偏心と入力外乱による厚さの変動を抑えることです。

-軸から開始します。まず、モデル構成要素を伝達関数オブジェクトとして設定します。

つぎに、図1-1に示した開ループモデルを作成します。この目的のために関数connectを利用することができますが、このモデルは、基本的なappendおよびseries結合で作成する方が簡単です。

ここで、変数Pxは、入力名と出力名をもった開ループ状態空間モデルで含んでいます。

第2出力'x-force'は、圧延力の測定値です。LQGレギュレータは、この測定値を用いて、油圧アクチュエータを駆動し、外乱による厚さの変動を抑えます。

LQG設計には、2つのステップが含まれます。

  1. つぎの形式のLQ評価関数を最小にする全状態フィードバックゲインを設計します。
  1. 力の測定値'x-force'を与えて、状態ベクトルを推定するKalmanフィルタを設計します。

評価関数は、低周波数にとっても、高周波数にとっても不利です。低周波数変動が第一の関心事なので、ローパスフィルタを用いて、 の高周波成分を除去し、LQ評価関数にフィルタ処理した値を使用します。

つぎに、関数kalmanを用いて、Kalman状態推定器を設計します。プロセスノイズ

は、構造上単位共分散をもっています。観測ノイズ共分散を1000に設定して、高周波数ゲインを制限し、推定器設計用に測定した出力'x-force'のみを観測量とします。

最後に、状態フィードバックゲインkxと状態推定器estxを結合して、LQGレギュレータを構成します。

これで、-軸用のLQG設計は完了します。

ここで、0.1-1000ラジアン/秒の範囲でレギュレータBode線図を見てみます。

位相応答については、興味深い物理解釈ができます。まず、入力の厚さの増加を考えます。この低周波数外乱は、出力の厚さと圧延力のいずれをも高めます。レギュレータ位相は、低周波数で約0度なので、油圧力を増加することによって、フィードバックループは適切に反応し、厚さの増加を相殺します。ここで、偏心の影響について考慮します。偏心は、圧延ギャップ(圧延シリンダ間のギャップ)の変動の原因となります。圧延ギャップが最小のとき、圧延力は増加し、ビームの厚さは減少します。この場合には、油圧力を減少させて(負の力のフィードバック)、希望する厚さに戻す必要があります。これは、まさに偏心外乱(6 ラジアン/秒)の固有周波数近辺で位相が-180度まで遅れるときに、LQGレギュレータが実行することに他なりません。

つぎに、外乱から厚さギャップへの開ループ応答と閉ループ応答とを比較します。feedbackを用いてループを閉じます。フィードバック結合の設定を容易にするには、プラントPxとレギュレータRegxのI/O名前を参照します。

このことは、Pxの第1入力と第2出力をレギュレータに結合しなければならないことを意味します。

これで、外乱から厚さギャップへの開ループBode線図と閉ループBode線図との比較を行う準備ができました。

破線は、開ループ応答を示しています。偏心からギャップへの応答のピークゲインと入力の厚さからギャップへの応答の低周波数ゲインが、約20dB減少したことに注目してください。

最後に、lsimを用いて白色ノイズ入力に対する開ループおよび閉ループの時間応答をシミュレーションします。シミュレーションのサンプリング周期として、dt=0.01を選択し、このサンプリングレートに対する等価離散白色ノイズ入力を導きます。

点線は、開ループ応答に対応します。このシミュレーションでは、LQGレギュレータにより、厚さの変動がピークの4分の1に抑えられます。


 プロセスと外乱モデル y軸に対するLQG設計